安曇野図書館の新刊本コーナーで目にして借りて来たのがこの本である。
1997年にサイマル出版会から刊行された『思いやる勇気―ユダヤ人をホロコーストから救った人びと』を復刊したもの。
ナチスから迫害されたユダヤ人を助けた人として、杉原千畝、オスカー・シンドラー、ラウル・ワレンバーグが有名であるが、本書に登場するのは基本的には、例えばフランスの農村の人だったりする。無名の多くの人々の証言が記録されている。助けたことを知られれば殺されるのに、ユダヤ人を助け、食べ物を分け与えたりしたヨーロッパの各国の勇気ある人々は、人間らしい心を、困難な状況下でも失うことなく、暗黒の中に一条の希望の光を放っている。
そんな中に、プロテスタント教会の牧師なども含まれていた。ユダヤ教徒をキリスト教に改宗させようなどの下心はなかった。聖書の社会観は「同胞が傷つき、苦しみ、虐待されているとき、黙って傍観していてはいけない」という原則に支配されている。しかし、祭司職の中には密告した者もいた。
しかし、驚くのはユダヤ人たちに救いの手を差し伸べた多くは、ごく“普通の人”だったこと。出来ることを注意深くしただけだった。目の前にいる人が窮地に立たされていることを知った時、手を差し伸べずにはいられなかったのだ。本書を読む限り、彼らの意識のなかでは、ユダヤ人を助けることは、我が兄弟たちを助けることだったのだ。
「そうしないではいられなかった」との言葉や「人として当たり前のことをしただけ」の言葉は、尊い誰かに背を押されて出た言葉であり、行為であったと感じるのはわたしだけだろうか。
本書 ホロコーストの意味のページでエリ・ウィーゼルが記している中から一文を載せておきたい。
【覚えてほしい。人命を救うのは難しい事ではないのだ。見捨てられた子どもに情けをかけるのに、雄々しくなる必要も夢中になる必要もなかった。ただドアを開けるだけ、パン一つ、シャツ一枚、硬貨一枚、投げてやるだけでよかった。同情するだけで】。
一読をお薦めしたい。
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