<自殺者の脳は何が違うか──その知識を生かせば悲劇を未然に防げる?>
自らの命を絶つ前の週、ジェレミー・リッチマン(49)はフロリダ州のフロリダ・アトランティック大学で講演を行った。
テーマは「人間であることの脳科学」。脳科学を活用すれば、自分や他人を傷つけるリスクがある人に気付き、支援の手を差し伸べられる可能性がある──それが3月19日に行われた講演の趣旨だった。
聴衆の関心も高かったに違いない。この2日前、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で昨年2月に起きた銃乱射事件の生存者の1人が自殺していた。数日後には、同じ高校の生徒がまた1人命を絶った。アメリカの自殺者は増加傾向にあり、17年には4万7000人に達した。
リッチマンは、このテーマにことのほか強い思い入れがあった。自らの悲しい経験があったのだ。12年12月14日、コネティカット州ニュータウンのサンディーフック小学校に20歳の男が押し入り、26人を殺害し、自らも命を絶った。この事件で殺害されたなかに、当時6歳の娘アビエルが含まれていたのだ。
リッチマンと妻のジェニファー・ヘンセルは事件後直ちに、娘を失った悲しみを行動に換えることを決意した。娘の名前を冠した財団を設立し、銃暴力を防ぐために脳科学の研究を支援し始めたのだ。薬学博士号を持つリッチマンは、製薬会社を辞めて財団の仕事に専念した。
自らの命を絶つ前の週、ジェレミー・リッチマン(49)はフロリダ州のフロリダ・アトランティック大学で講演を行った。
テーマは「人間であることの脳科学」。脳科学を活用すれば、自分や他人を傷つけるリスクがある人に気付き、支援の手を差し伸べられる可能性がある──それが3月19日に行われた講演の趣旨だった。
聴衆の関心も高かったに違いない。この2日前、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で昨年2月に起きた銃乱射事件の生存者の1人が自殺していた。数日後には、同じ高校の生徒がまた1人命を絶った。アメリカの自殺者は増加傾向にあり、17年には4万7000人に達した。
リッチマンは、このテーマにことのほか強い思い入れがあった。自らの悲しい経験があったのだ。12年12月14日、コネティカット州ニュータウンのサンディーフック小学校に20歳の男が押し入り、26人を殺害し、自らも命を絶った。この事件で殺害されたなかに、当時6歳の娘アビエルが含まれていたのだ。
リッチマンと妻のジェニファー・ヘンセルは事件後直ちに、娘を失った悲しみを行動に換えることを決意した。娘の名前を冠した財団を設立し、銃暴力を防ぐために脳科学の研究を支援し始めたのだ。薬学博士号を持つリッチマンは、製薬会社を辞めて財団の仕事に専念した。
「この研究では、被験者に30の単語を読み上げた。「精神疾患は特定の物事への考え方を変える」と、カーネギー・メロン大学認知脳画像センター所長で、心理学教授のマーセル・ジャストは指摘する。「強迫観念が強いと、『警察』という単語に異なる脳活性化パターンを示す。自殺願望の場合も特定の単語に対して同様のことが起きる」
機械学習アルゴリズムは6つの単語(「死」「残酷」「困難」「気楽」「よい」「称賛」)が引き起こす脳内パターンを見るだけで、自殺願望がある人を90%の確率で特定できると、ジャストとピッツバーグ大学公衆衛生大学院のデービッド・ブレント教授は突き止めた。
被験者が示した脳活性化パターンは体系的で明白だった。なかでも顕著だったのが、自殺願望がある場合、6つの単語が「自己言及」に関わる脳内領域をはるかに活性化させたこと。つまり、人によっては戦争などを連想するはずの「死」という単語は、自殺傾向がある人の場合は自己についての考察に関わる脳内領域を強く刺激する。
薬理学者であり、エール大学医学大学院の精神医学講師に就任予定だったリッチマンが、ジャストらの研究結果を知っていた可能性は高い。それでも彼は自殺した。
「知識が行動の変化につながるとは限らない」と、ブレントは語る。「彼は6歳のわが子を亡くした。家族を失った人は悲痛が和らがない場合、特に自殺リスクが高い。鬱や心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったり、心の傷が癒えていなかったなら、そのどれもが自殺の引き金になり得た。優秀な学者だったという事実は無関係だ」
<Newsweek・2019年6月11日号掲載>からの要点 (注)algorithmアルゴリズム…コンピューターで計算を行うときの「計算方法」のことなんですが、広く考えれば、何か物事を行うときの「やり方」のことだと言っていいでしょう。
機械学習アルゴリズムは6つの単語(「死」「残酷」「困難」「気楽」「よい」「称賛」)が引き起こす脳内パターンを見るだけで、自殺願望がある人を90%の確率で特定できると、ジャストとピッツバーグ大学公衆衛生大学院のデービッド・ブレント教授は突き止めた。
被験者が示した脳活性化パターンは体系的で明白だった。なかでも顕著だったのが、自殺願望がある場合、6つの単語が「自己言及」に関わる脳内領域をはるかに活性化させたこと。つまり、人によっては戦争などを連想するはずの「死」という単語は、自殺傾向がある人の場合は自己についての考察に関わる脳内領域を強く刺激する。
薬理学者であり、エール大学医学大学院の精神医学講師に就任予定だったリッチマンが、ジャストらの研究結果を知っていた可能性は高い。それでも彼は自殺した。
「知識が行動の変化につながるとは限らない」と、ブレントは語る。「彼は6歳のわが子を亡くした。家族を失った人は悲痛が和らがない場合、特に自殺リスクが高い。鬱や心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったり、心の傷が癒えていなかったなら、そのどれもが自殺の引き金になり得た。優秀な学者だったという事実は無関係だ」
<Newsweek・2019年6月11日号掲載>からの要点 (注)algorithmアルゴリズム…コンピューターで計算を行うときの「計算方法」のことなんですが、広く考えれば、何か物事を行うときの「やり方」のことだと言っていいでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿